写真・文/植田正恵

133.クロワッサンの星 −後編−
月刊アクアネット2014年6月号

 

 そして約3ヵ月後。

 性能が未知数なだけにあまり期待していなかったこともあって、孵卵器で卵を育成中であることを本気で忘れかけていたある日、ふと思い出して孵卵器の中を覗いてみると、なんとホシガメの卵に亀裂が入っているではないか。

 すぐさま孵化するものと思い込み、あまりのうれしさに島中の人に報告したところ、それから完全に孵化するまで丸2日もかかったのだった。
 さすがカメ、気が長い。

 まぁ、孵化まで3か月余もの時間をかけたくらいだから、孵化に要する時間だって長くて当然だ。
 そしてようやく卵から出てきたホシガメチビ、その可愛いことといったら……。

 まだ吸収し切れていない卵黄の塊をお腹に抱えつつ、孵化早々ワタワタとけっこう激しく動き回る。
 その後も次々に孵化するそんなチビたちは、孵卵器から飼育用の容器へ移し、1年間は保温機能付きの室内飼いをして様子を見ることにした。

 手探りながらもこうしてホシガメの繁殖に成功してしまった当時、調べてみると日本におけるホシガメの繁殖成功例はかなりまれだった。
 しかも孵化に成功している人は当然ながらかなりのマニアで、気合の入り方がまったく違う。私のようないい加減な飼育法&適当な孵卵器で成功してしまったのは、ひとえに沖縄の気候のなせる業なのだろう。

 その後もホシガメのメスは産卵し、その卵をせっせと孵卵器に移して孵化させては「いやあ、やっぱチビガメはカワイイわぁ!」と楽しんでいたら、当然のごとく増えすぎて困るという新たな問題が出来した。

 そこで、ダイビングのゲストのみなさんにそれとなく話題を持っていき、チビガメを見ていただくことにした。
 すると案の定、生き物好きでなくとも、これまでカメなど飼ったことがなくとも、たいていの人はかわいい!という反応をする。

 そこまでくればしめたもの。
 そのあとは餌を食べる様子を見てもらったり、手の上に乗せてみたりしてカメと戯れていただきながら、ホシガメベビーはペットショップで2万円前後の値段で売られている、という衝撃のジジツを一言添えるのを忘れない。
 最後に、「実は増えすぎちゃって里親募集中なんですよね…」と溜め息まじりにお伝えするわけだ。

 そうするとかなりの高確率で、飼おうか飼うまいか本気で悩むゲストができあがる。

 あまりに安易に「欲しい!」といわれるとかえってチビガメの行く末が心配だけれど、島にご滞在中悩みぬいた末、ついに飼うことにした方には喜んで引き取っていただいた。
 今ではおそらく
50個体くらいの我が家産ホシガメが、北は北海道から南は沖縄まで日本全国津々浦々で里子としてスクスクと育っている。
 そしてほとんどの里親の方が、ホシガメの魅力にはまってしまっているのは言うまでもない。

 何の気なしに飼い始めたホシガメだったのに、いつの間にやらその魅力が全国各地に広まってしまった……。

 その後我々の住環境の変化のせいで、実はここ2年ほどホシガメの孵化がうまくいっていなかった。
 それが今年、3年ぶりに孵化に成功した。
 安定供給(?)のあまりややマンネリ化しつつあったホシガメの繁殖に、またあらためて新鮮な感動とヨロコビを与えてもらっている今日この頃なのである。