写真・文/植田正恵

145.オニヒトデに罪はないけれど…
月刊アクアネット2015年6月号

 水納小中学校では、毎年春の大潮に潮干狩り大会が開催される。
 近年は事前のレクチャーや潮干狩り中のツアーリーダー的な役目として私が講師を仰せつかるのが恒例になっていて、出発前のレクチャーではもちろん危険な生物の説明もする。

 危険な生物にはいろいろいるけれど、なかでもオニヒトデは、潮干狩り中でも実際にサンゴの上に乗っかっているのをちょくちょく見かけるほどに出会う頻度が高い。

 サンゴを食べてしまうことでも知られるオニヒトデ。70年代には沖縄でこのオニヒトデが大発生し、亜熱帯の海を彩るサンゴをことごとく食べ尽くしてしまった。
 そのため私が琉球大学に在学中だった
80年代後半の水納島の海は、サンゴ礁の回復はまだまだ遠く及ばず、リーフ際の浅い海のイメージは瓦礫と砂が作るモノトーンの世界だった。

 私が水納島に越してきた95年には、リーフの上でプカプカ浮かびながら海中を眺めるだけでも楽しいほどに、サンゴは回復していた。
 スキューバダイビングで水深
20付近を楽しんだ後、浅瀬に戻ってきてからはサンゴとその周りに集うカラフルな小魚たちと戯れる楽しいダイビングができたものだ。

 そんな天国のような海に、再びオニヒトデが目立つようになってきた。
 学生時代、サンゴ礁生態学という授業で先生が

 「大発生は過去数千年間に周期的に起こっている。海が汚れたことで、大発生は頻繁になるかもしれない」

 と言っていたのを思い出し、思わず戦慄したものだ。ひょっとしたら間引きになってしまうかもしれないと思いつつも、食べられて真っ白になるサンゴを見るといたたまれず、そのつどオニヒトデを退治していた。

 ところがその甲斐もなく、98年に起こった世界的なサンゴの白化によって、水納島のサンゴもまたそのほとんどが死んでしまった。サンゴの敵は、オニヒトデだけではなかったのだ。

 白化から17年経った現在、水納島のサンゴは95年当時のレベルぐらいには回復している。環境がサンゴの生育に適した状態で、なおかつオニヒトデの数とサンゴの成長速度とのバランスがとれていれば、移植などの人工的な手を加えずとも、サンゴは自然の力で見事に復活するのである。

 ただし、慢性的に個体数過多のオニヒトデもまた、サンゴが増えるとまるで湧いて出てくるようにその数を増やす。そのため食害は後を絶たず、長年成長を見守っていたサンゴがあっという間に食べ尽くされてしまう、ということも依然としてしょっちゅうある。

 サンゴをオニヒトデの食害から守るには、やはり駆除するしかない。近年はオニヒトデの研究も相当進み、大発生を抑制するための効果的な駆除方法も確立されようとしているようだ。

 それは自然保護というよりは人間のエゴなのかもしれない。でもサンゴが無いサンゴ礁は、人間にとっても多くのサンゴ礁生物にとっても、かなり暮らしづらい悲惨な世界である。
 私もまたそこで暮らす一個の生物である以上、目の前でサンゴがオニヒトデに食べられているのを、指をくわえて眺めているわけにはいかない。オニヒトデにはなんの罪もないけれど、ここはエゴを通させてもらおう。

 潮干狩りの講師はそんなことを考えつつ、潮干狩りの最中にオニヒトデを発見したら通報してもらい、その場で退治しているのであった。