写真・文/植田正恵

169.シロチドリの子育て

月刊アクアネット2017年6月号

 ゴールデンウィークが終わり、のんびりしていたある晴れた日の夕方。

 桟橋へ向かう石畳の道を、いつものようにゆっくりと軽トラックを走らせてると、数m前を、白っぽい綿屑のようなものが2つ、転がるように海に向かっていくのが見えた。

 一瞬「?」と思ったものの、そこは海中案内人の眼力というか変態的生き物好きの底力というか、即座に「シロチドリの親子」と認定して車を停止。
 ただしその時点でシロチドリとの距離は1メートルくらいしかなく、車から降りたときには、親鳥は危険を察知して海側へ
10mほど先に飛んでしまった。

 残された雛は飛べないからもちろん親にはついていけず、そのまま路上に立ちすくむのかと思いきや、あら不思議、忽然と姿を消している。

 キツネにつままれた感のまま、そこに通りかかった水納島在住50年以上のR氏にわけを話すと、

 「だったら雛はこの辺にいるはずだよ」

 と道の両脇に設えられている石垣を示しつつ自ら捜索。
 するとあっという間に、ものの見事に雛を発見。
 雛は危険を回避するため、石垣の隙間に入り込んでうずくまっていたのだ。

 5mくらい離れたところから心配げに発し続けている親鳥の声は、きっと警告の合図なのだろう、我々が眼前まで近づいても雛は微動だにしなかった。
 ジッとしていることで敵をやり過ごす身の守り方なのである。

 このまましつこくつきまとっていたら、雛はずっと動けないままになってしまうに違いない。
 なので少し距離をとってみたところ、うずくまっていたヒナは再び路上に飛び出し、スタコラサッサと親が呼ぶ方へ駆けて行った。

 無事に合流し、仲良く海のほうへ走っていった親子。海岸ではその後どうするのだろうか。

 少し時間を置いてから浜に下りてみたところ、そこにはなぜか親鳥の姿しかなかった。
 ハテナ?と首をかしげているところに、たまたまこのときシロチドリ親子の一部始終を見ていたT氏(同じく水納島在住
50年以上)が、雛は海岸植物の茂みに隠れたとのこと。

 その海岸植物ゾーンで雛の姿を探していたところ、少し離れたところで親が鳴き声を発しながら、わざとよろめくように歩いていた。
 T氏いわく、ケガをしたふりをして敵の気を引きつつ、雛から遠ざける行動だという。
 そういえばチドリの仲間はいわゆる擬傷行動をするのだった。知識としては知っていたけれど、目の当たりにしたのは初めてのことだ。

 シロチドリは水納島では通年観られ、海岸べりにいれば誰でも目にすることができる鳥である。
 でも雛を育てる時期がシーズン中のため、冬場のように海岸を散歩する機会が無くなることもあって、私が実際に雛の姿を見たのは、
23年目を迎えた水納島生活で実はこれが初めてのこと。

 その点海辺に限らず島内の生き物全般について詳しい在住50年以上の両氏は、シーズン中はビーチで忙しく働いているだけにもちろんチドリたちの子育てにも明るい。
 たとえシロチドリという標準和名や擬傷行動という生態学的専門用語などとは無縁でも、誰よりもその生態をよく知っている島の方々に改めて脱帽した。

 もっとも、本来浜辺で完結するはずのシロチドリの子育てだから、石畳道を親子連れで歩いているのを見たのはR氏も初めてとのことで、私にとってはとてつもない幸運が重なっていたようだ。

 おまけにそのR氏にシロチドリが繁殖する場所を教えてもらうという特典もついて、これぞ小さな離島の夕刻、のんびりのどかな時間を満喫できたのだった。