写真・文/植田正恵

180.テロリストの穴?

月刊アクアネット2018年5月号

 水納島を初めて訪れ、興味を抱いてくださったお客さんから、決まって質問されることがいくつかある。

  その輝け第1位は、島民人口だ。それに関連して、小中学校の児童生徒数が続く。

 一方、島内を少しでも散策された方が不思議に思うことの第1位は、島内未舗装路に点在する直径5cm前後のナゾの穴。

 雑貨屋さんの店番をもっぱら担当しているだんなは、かれこれ253回くらい同じ質問を受けたことがあるという。

  沿道は亜熱帯の藪だから、その穴には危険な生物が住んでいるのではないか、と日帰り客は不安になるらしい。

 かくいう私も水納島に引っ越してきたばかりの頃は、ハブの巣穴では?と勘違いし、不用意に近づかないようにしていた。

 はたしてその穴はの正体は??

  2000年に開催された沖縄サミットでは、クリントン大統領をはじめとするアメリカ政府の滞在先を中心に、大々的に周辺の警備体制が敷かれることとなり、九州からも大勢の機動隊が応援に駆けつけていた。

 さっそく彼らがホテル周辺の未舗装路をチェックしてみると、アヤシゲな穴がそこかしこに。

 すわテロ計画か?

 とばかり大いに色めきたった精鋭部隊が慌てて調査したところ、それはなんと……

 オカガニの巣穴なのだった。

  ことの真偽はともかく、そんな笑い話が生まれるくらいに、沖縄県ではオカガニは一般的なカニだ。

 比較的大きなカニで、その名のとおり暮らしの大半を海辺の陸上で過ごしている。

 島全体が海辺といっていいサイズの水納島では、オカガニも巣穴も、畑であれ庭であれ、そこが地面であれば普通に見られる。

  それほど身近なオカガニは、朝や夜、そして湿度が高い曇りや雨の日には日中でも、外に出てきて活動するから、島で暮らしていればその姿を目にする機会は多い。

 けれど天気のいい夏場の日中には、乾燥しないよう深い巣穴の奥のほうに潜んでいるため、オカガニが外に出てくることはまずない。

 となると散策中の日帰り客は、ただ巣穴だけを目にすることになるわけで、不思議かつ不気味に思うのも無理はない。

  そんなオカガニではあるけれど、たとえそこが海辺であっても、地面がコンクリートやアスファルトの構造物で覆われていると、巣穴を掘ることができないため棲めなくなる。

 メスは幼生を放出するために海に下りてくる必要があるし、幼生時代は海中で生活するので、護岸などで海と陸が切り離されていたり、海自体が汚染され過ぎていると、やはりオカガニは生息できない。

  オカガニがいない海岸付近というのは、すでに自然環境が随分損なわれているといっていいだろう。

  植物を好んで食べるオカガニは、畑に植えたばかりの苗を食い荒らす害虫(?)でもある。
 けれどもオカガニがいるということは、それだけ海辺の自然が残っているということでもあるのだ。そう考えれば、大切な苗を多少害されようとも、それはそれでとても豊かなことなのだと前向きに考えてみる。

  夏の初めの満月の夜には、幼生をお腹に抱えたオカガニのメスたちが、大挙して海に下りていく。
 そんな風景が当たり前に観られる「海辺」を、いつまでも大切にしたい。