写真・文/植田正恵

185.携帯がもたらす禍福

月刊アクアネット2018年10月号

 近頃の街中における「待ち合わせ」は、昔に比べると待ち合わせの態をまったく成していない…という声を(昭和世代から)よく聞く。

 携帯端末普及のおかげで、時刻や場所を詳細にわたってあらかじめ決めておかずとも、電話しながら、あるいはSNSツールを使いながら、フツーに望みの場所で落ち合うことができる世の中になっているからだ。

 その点、ボート操船中の非常時用無線替わりに携帯電話(ガラケー)を夫婦で一台きり持っているのみ、それも普段は電源すら入れていないという我々からすれば、まったく近頃の世の中はもう……などと昭和代表的に愚痴のひとつも零したくなるところ。

 ところが、そんな世の中になったおかげで、我々もまたとっても助かっていることがある。

  今年は台風の当たり年。沖縄という立地上、台風が来てしまうのは仕方がないことだから、台風による経済的被害はある程度は想定している。

 とはいえ今年の台風ときたら、予想外の動きはするわ、発生場所が沖縄近海(かつてはもっと低緯度で発生)だわ、接近する頻度が高すぎるわで、例年以上にてんてこ舞いになるケースが多い。

 台風の進路により連絡船の欠航やダイビングの中止が予想される状況になると、ご予約をいただいているゲストそれぞれに、事前にお伝えしなければならない。
 とりわけやっかいなのが、飛行機は運航するけれども連絡船は微妙という状況で、ゲストご自身は沖縄に来られたはいいものの、連絡船が欠航すると島には渡れなくなる。

 そうなるとゲストは、その日の宿泊を急遽本島で確保しなければならず、繁忙期となると直前の宿の確保もままならないうえに、沖縄付近を通過する台風は速度が遅く、進路が定まらないことも多いため、いったい何日間本島で足止めを食うことになるのかが読みづらい。

 そんなとき、ゲストがどこにいらっしゃろうと、ご予約時に伺っている番号に電話しさえすれば、いつなんどきでも連絡船運航状況の最新情報を逐一お伝えすることができる携帯電話の存在は、まったく連絡がとれないために連絡船券売所窓口に個人的メッセージの貼り紙をしてもらって状況をお伝えしていたこともある20年前のことを思えば、ほとんどスタートレックの世界のような便利ツールである。

  ただし、禍福は糾える縄の如し。

 便利なこともあれば、不便なことも生じてくるのは世の常のこと。
 昔のゲストは、公衆電話ひとつ無い水納島に来てしまえばもう娑婆から隔絶されるのをいいことに、職場に行き先は告げつつも、その間連絡は取れないという天国を味わっておられたものだった。

 それが今の高度情報通信社会では、わざわざ会社が個人個人に社用スマホを持たせ、いついかなるときも連絡手段の確保が義務付けられているため、旅行中であっても頻繁に会社から仕事上の連絡が入ったり、水納島ご滞在中にノートパソコンに向かっての仕事を余儀なくされていたりする。

 何にも邪魔されず、のんびりまったり南の島で過ごす……なんてことは、もはや夢のまた夢になってしまったのだろうか。

 無用の残業を減らす方向で頑張っている「働き方改革」は、バカンスと仕事のメリハリをちゃんとつけるという改革も必要なんじゃなかろうか…と思ったりもする。

  携帯電話は夫婦で1台、電源を入れることすら滅多になくとも、まったく困らない暮らしでよかったよかった(時代に取り残されていることに気づいていないだけかも?)。