写真・文/植田正恵

206回.ハマシタンを知る
月刊アクアネット2020年7月号

 水納島は、周囲4q程の小さな島。

 島全体が海辺といってよく、どこに向かって歩いてもちょっと行けばすぐに海岸になる。

 シーズンオフにはそんな身近な海岸を散歩して、海岸植物を眺めて回るのもまた、私のささやかな楽しみの一つだ。

 今年の春はコロナのせいでシゴトにならなかったかわりに、島内散歩をする時間はたっぷりあったので、おなじみの海岸植物たちの花々を楽しむこともできた。

 もっとも、コロナ禍でヒマなのは我々だけではなかった。

 観光業が生業の島のこと、本来ならば職種ごとにそれぞれ忙しくなるはずの6月になっても島民のほとんどがヒマ状態とあっては、誰にもたっぷりある時間を有効に使わない手はないというわけで、島内大清掃大会(御願所清掃、沿道の草刈り、街路樹の枝の伐採、未舗装路の補修など)を行うことになったのは5月の末のことだった。

 2日たっぷりかけた人海戦術(総勢11名…)のおかげで、この先台風被害でも出ないかぎり、当面大掛かりな作業はしなくて済みそうなほどにいろいろなことができた。

 そんな作業のあとは、慰労会的にみんなで連日刺身を肴に軽く酒などを飲む。それぞれの仕事で忙しい例年のこの時期とは違い、島のみなさんと長時間接する日々が続いたおかげで、この季節ならではの島話を久しぶりにいろいろうかがうこともできた。

 ハマシタンという海岸植物の存在を知ったのも、そうやって島の方々と飲んでいるときのことだった。

 ハマシタンは和名を「ミズガンピ」という常緑の木で、海辺の琉球石灰岩上に群落を作る。沖縄の他の島では、群落が観光スポットになっているところもあるそうだ。

 また、琉球石灰岩はやわらかく脆い岩石ということもあり、土台になっている岩ごと、盆栽として結構な値段で取引されているという。

 ハマシタンのことを教えてくれた島の方によると、ハマシタンのそばで海水浴客らしき数人が泳いで遊んでいるふりをして、そのうちの一人がこっそり土台の岩ごとハマシタンの株を海辺から盗んでいくのを目撃したこともあるそうで、たいそう憤慨しておられた。

 群落があると教えてもらった場所をさっそく訪れてみると、なるほどたしかにハマシタンが盛大に群生している。

 シーズンオフの散歩でよく行くところなのに、なんで今まで気づかなかったのだろう?と首をかしげるくらいの規模の群落だ。

 水納島にはこのほか、ウコンイソマツなど県内盆栽業界で人気の海岸植物がたくさん自生している場所もある。

 ただどれもこれも潮や強い風など厳しい環境に耐えながら育つために成長はゆっくりで、けっして成長は早くないし、正直な話、その方面の造詣皆無の私からすれば、なぜにわざわざ高値で取引されるのか思わず首を傾げてしまう姿形だ。

  しかし周りを海に囲まれている沖縄とはいえ開発等で自然海岸が激減してしまっている現在、環境さえ整っていればフツーに観られるこれらの植物たちが、乱獲もあいまってすっかり「貴重」になってきているのだ。

 そして「貴重さ」がさらなる乱獲を呼ぶ。

 貴重なモノを珍重する気持ちはわかるけれど、「貴重」だから自分のものにする、という時点で、盆栽を愛でる心の世界とはまったく真逆の、寂しく虚ろな即物ワールドが垣間見えてしまう。

 ハマシタン愛好家は多くとも、それらを観ることができる自然のままの海岸…という貴重さに気づく人は、意外に少ないのかもしれない。