水納島の野鳥たち

ウミアイサ

全長 50cmほど

 島に越してきてからまだ数年経ったか経たないかくらいの頃は、おばあたちもみなさんお元気で足腰もしっかりしていたから、生き物好きのフミちゃんおばさん(民宿大城のおばあ)は裏浜の干潟も行動エリアにされていた。

 当時の我々は裏浜から徒歩10秒の旧我が家で暮らしていたので、おばさんが裏浜で何か見つけたりすると、第一報は必ず我が家にもたらされるのが通例だった。

 そんなある日のこと、いつものように裏浜を散歩していたフミちゃんおばさんが、

 「カモがいた!」

 と興奮モードで知らせに来てくれた。

 ん?海にカモ?

 なんであれ、水納島に暮らし続けて200年近いおばあが興奮モードになっているくらいだから、相当珍しい鳥に違いない。

 さっそく現地に駆けつけてみると、潮が引いて遠くなっている水面に、たしかにカモっぽい鳥さんがいるではないか。

 それが何月のことだったのか、なにぶん前世紀のことなのですっかり忘れてしまっているものの、とにもかくにも画像記録を残すことができたのか、その後正体が判明した。

 これまたどうやって正体を突き止めることができたのか、今となっては手段については完全に忘却の彼方に消えてしまってはいても、「ウミアイサ」という耳慣れぬ名前はその後ずっとインプットされることとなった。

 横から観たフォルムはカモに似ているけれど(ウミアイサも同じカモ科)、カモに比べるとクチバシは細く、全体的なイメージがシュッとして見える。

 カモ類は水辺でシャベシャベシャベシャベ…ともっぱら藻類を食べているのに対し、ウミアイサは魚食がメインだそうで、捕えた獲物を逃さぬよう、彼らの細いクチバシには、細かいながらもスルドイ歯のようなギザギザが並んでいる。

 ウミアイサたちは夏季に亜寒帯で繁殖をし、冬季になると温帯域まで南下してくるそうで、本土でもわりとお馴染みの鳥なのだそうな(カワアイサというそっくりな種類もいる)。

 ただし同じ日本でも沖縄は亜熱帯なので、彼らが理想とする土地ではないらしく、県内でその姿を目にするのはけっこうレアケースっぽい。

 となると、再会はそうそう望めるものではないのだろうか…

 …と思いきや、2007年の年の瀬に、再び裏浜でウミアイサの姿を発見!

 人生初遭遇時のウミアイサがオスだったのかメスだったのかまったく覚えていないけれど、今回は画像記録を残せたおかげでこれはメスであることがわかった。

 沖縄県内の場合、毎年コンスタントに渡って来る「冬鳥」という扱いではなく、稀に姿を見かけることもある「迷鳥」扱いになっているようだ。

 となると「水納島にも姿を見せたことがある」というジジツは、出すところに出せば貴重な情報だったりするかもしれない。

 そんなレアバードとの遭遇にこの時興奮していたのは、ワタシだけではなかった。

 のんびり水面に浮かぶウミアイサを、物珍し気に傍でジッと見つめるクロサギの姿が。

 クロサギは留鳥だから、彼にとっても一生に一度級の出会いだったのだろう。