海のなんじゃこりゃ?

其之四十一

ヒトデ泣かせ

 棘皮動物を宿主とする甲殻類の仲間は数多い。

 いろんなヒトデを住処にするヒトデヤドリエビは、アオヒトデについていることもある。

 マンジュウヒトデに比べるとその確率は低いものの、青いヒトデの色に合わせた青っぽいヒトデヤドリエビは美しい。

 そんな青いヒトデヤドリエビを求めてアオヒトデを引っくり返すと、そこにはエビではなく変なものがついていたりする。

 なんじゃこりゃ?

 パッと見はデキモノ、もしくはコペポーダの1種がついているかのように見えるのだけど、よく観ると、それが貝であることがわかる。

 この貝はたまたまここについてしまったわけではなく、能動的にアオヒトデに寄生しているもので、その名を「ヒトデナカセ」という。

 なかなか諧謔の利いた素敵な和名とは思うものの、ここで紹介しているものはまだまだ小柄なものばかりで、成長すればアオヒトデの腕の幅くらいにもなるヒトデナカセ。

 泣かされる立場のヒトデにとっては、たまったものではないかも。

 ただしヒトデヤドリニナのように内部に侵入していくタイプとは異なり、ヒトデナカセはあくまでも外側に張り付いたまま、宿主の体液をチュウチュウ吸い続ける外部寄生タイプ。

 水納島ではアオヒトデ以外のヒトデでまだ目にしたことがないけれど、宿主は特にアオヒトデオンリーと決まっているわけではないようだ。

 セキュリティの観点からすれば、アオヒトデの裏側についているというのはわかるのだけど、面白いことにこのヒトデナカセは、アオヒトデの裏側を上から見た場合、各腕に走る割れ目(歩帯溝)の左側にもっぱら寄生するという研究報告があるらしい。

 言われてみると、これも…

 これも…

 なるほど、歩帯溝の左側についている!

 同じ体液でも静脈と動脈のような違いがあるのだろうか?

 ところで、ヒトデナカセの学名は Thyca crystallina といい、その種小名はクリスタルこと水晶の意。

 では、アオヒトデについているものが青い宝石のように見えるのは、宿主が青いからであって、他の色の場合は色味が変わるのだろうか。

 アオヒトデには青ヒトデといいつさほど青くないものもおり、なかには裏側がかなり黄色っぽいものまでいる。

 その黄色い裏側についているヒトデナカセは…

 …やっぱり青かった。

 ということは、貝殻自体が青いのだろうか…

 …と思いきや、そちらはそちらで強大かつ広大なる変態社会を築いている貝殻コレクター、その世界で見受けられるヒトデナカセの貝殻は白っぽく見える。

 はてさて、ヒトデナカセの青い色は、何がどうなっているんだろう?

 実はこの青も水玉模様も、貝の身の色なのだ。

 (完全無欠の透明というわけではないにせよ)クリスタルな貝殻から体の色が透けて見えているのである。

 いわば変態社会系のクリーチャーではあるし、寄生生物ともなればキワモノ系でもあるヒトデナカセ。

 でもこういったジジツを知ってしまった以上、一度じっくり観てみたくなったからといって、誰もアナタを変態呼ばわりはしない…

 …と思います。