水納島の魚たち

クロシマゴチ

全長 20cm

 今じゃ考えられなくらいにスナゴチがどこの砂地の根のそばにもいたその昔は、砂に潜るこのテのコチといえば、すべてスナゴチだと思い込んでいた。

 ところがある日、同じように砂に潜っているコチの中に、スナゴチにしては体が細く、全体に武張った雰囲気で見た目硬そうなものがいることに気がついた。

 限られた図鑑で調べるしかなかった当時でも、どうやらそれはクロシマゴチという種類らしいことがわかった。

 以来今日(2019年12月)に至るまで、スナゴチよりも細めの硬そうなヤツはクロシマゴチ。

 …ということにしてきたのだけれど、実はクロシマゴチ属にはクロシマゴチとそっくりなセレベスゴチというコチもいる、ということについては、知らぬ顔の半兵衛を決め込むことにした。

 ところが今や両者の区別方法をシロウトでも見分けられるように解説してくれている情報がネット上でもたくさん出ていているので、この際キチンと観てみよう…

 …と思ったものの、そうやって区別できるポイントとして述べられているものは「個体差」の範囲でとうとでも解釈できそうなものばかりで、やはりシロウトが写真だけで区別するなんてそもそも無理な話っぽい。

 なので再び原点(?)に戻り、ここでクロシマゴチと述べているコチがもしセレベスゴチ(もしくは他のコチ)であったとしても、この際気にしないことにする。

 さてこのクロシマゴチ(らしきコチ)は、スナゴチと同じようなところで観られるほか、スナゴチを見かけることはないリーフ際のちょっとした岩陰でも観られることがある。

 スナゴチと同じように砂に潜っていることが多いのだけど、背中の砂を払った場合、スナゴチに比べて随分我慢強い。

 手で触ったりフィンで蹴飛ばしたわけでもないのに、最初から剥き身(?)だったこともあった記憶もあるし、そもそも砂に執着が無いのか、礫底っぽいところで最初から全身を晒していることも。

 砂に隠れているときでも、スナゴチに比べるととてもわかりやすいというイメージがある。

 輪郭はクッキリハッキリ。

 全体的に細長いからだろうか、それとも後方に伸びる頭部のトゲトゲが長いからだろうか、その容姿はスナゴチに比べて随分戦闘的にも見える。

 まぁいずれにせよフィッシュイーターなのだから、戦闘的なのは当たり前か。

 ところで、シロウトでも参考にできるような注目点としてあげられているものの一つが、彼らの眼。

 この眼の上に波平の頭頂部のように1本だけある皮弁の有無だとか、瞳を覆うヒダヒダの、特に下側の山の部分がひとつかふたつかなどなど、細かい相違点を見比べるのだそうだ。

 ちなみに上の眼は冒頭の写真の子の眼で、砂に隠れた状態で登場した子の目は↓こんな感じ。

 瞳の開閉具合いはこの際関係ないとして、さて、クロシマゴチであってますかね?

 コチのオーソリティーである屋我地のS下さんに、そのうち尋ねてみよう。

 追記(2021年11月)

 この稿に掲載しているものがホントにクロシマゴチなのか、ということについては尋ねる機会が無いままなのだけど、ひょんなことからクロシマゴチの別の一面をご教示いただいた。

 コロナ禍のおかげでヒマだったこともあり、夜の海にも繰り出していた2020年の初夏のこと。

 すっかり夜の帳が降りている砂地の根のそばの砂底に、昼間にはあり得ない装いになっているコチの仲間がいた。

 10cmほどと小柄で、ライトを当てなければ完全な暗闇の砂底に、ヒョコン…と佇んでいた。

 ジッとしたままでいてくれるのかと思い、遠慮なくカメラを近づけるとビュッ!とダッシュし、素早く砂中に逃げ込んだ。

 もっとも、動きは素早いけれど砂に埋まる動作はテキトーで、上半身はほとんど出ているけど。

 体のわりにやけに立派な胸ビレも気になるところながら、顔つきにまったく見覚えが無い。

 これは昼間お馴染みのコチ類の夜の姿なのか、それとも昼間には出会えない夜ならではのコチなのか。

 まったく正体不明状態に陥っていたまま拙日記上で紹介したところ、さすがコチオーソリティー、屋我地のS下さんが、これはクロシマゴチである、と巨大な太鼓判を押してくれたのだった。

 夜中だと砂底上で実に堂々としているんだなぁ、クロシマゴチ。