水納島の魚たち

ウミスズメ

全長 10cm

 ウミスズメという鳥の仲間もいるし、魚でスズメといえばスズメダイの仲間もいるからややこしいけれど、魚のウミスズメはハコフグの仲間だ。

 水納島で観られるハコフグといえば、ミナミハコフグや渋いところでクロハコフグがおなじみだ。

 そしてちょいレアなコンゴウフグもいる。

 それらに比べると、このウミスズメは水納島では相当レアものだ。

 ところが過去に1度だけ目にしたことがあって、その貴重な1匹が、某有名海洋写真家が実名で初めて世に送り出した作品集「ゆかいな魚大集合!」に載っている。

 今では手に入れることすら難しい幻の名著ながら、そのロケ地のほとんどが水納島だから、未見の方は是非ともご一読ください。

 写り具合いと同じく頼りないウスラボンヤリした記憶では(なにしろ前世紀のことですから…)、↓このウスラボンヤリした写真は、その写真集に掲載されているウミスズメと同じ子のはず。

 それどころか、同じ撮影日時だったはず。

 当時はまだ水納島に越してきたばかりで、水納島では何が千載一遇で何がこの先もずっと会える魚なのか、まだ手探り状態だったワタシは、それ以前の数年間西伊豆の大瀬崎では親戚のシマウミスズメのチビにはよく会っていたこともあって、このウミスズメとの遭遇のチャンスを、某有名(になる前だけど)海洋写真家に譲ったんじゃなかったっけか。

 まったくの記憶違いならゴメンナサイ。

 いずれにせよこの時の出会いが、それ以前も含めた水納島での30年で、海中での唯一の出会いになろうとは夢にも思っていなかった。

 そのため長い間、証拠写真的にテキトーに撮った先ほどのウスラボンヤリヘナチョコ写真だけが、手元に残る唯一のウミスズメの記録となっていたのだった。

 モノを知らぬと損をする。

 そんなウミスズメと再会を果たしたのは、2014年1月のことだ。

 オフシーズンのお散歩日和だったので、ヒマにまかせて海岸を散歩していると、なにやらアヤシゲな物体が打ち上げられていた。

 これ。

 あの日あの時はかわいいそぶりを海中で楽しませてくれたというのに、15年以上の時を隔てて再会した姿が、まさか干物だなんて……。  

 立場が逆じゃなかったことを喜ぶべきだろうか。

 変わり果てた姿ながら、干物でもレアである。

 散歩中はカメラを持っていなかったので、思わず家まで持って帰ってきてしまった。

 うーん、不気味といえば不気味ながら、可愛いといえば可愛くも見えるウミスズメ。

 おそるべしハコフグ、干物になってまで可愛いとは。

 それはともかく、海岸に打ち上げられて干物になるくらいだから、ウミスズメ、今もまだいることはいるんだなぁ。

 次回は是非、生前にお会いしたい。

 追記(2026年5月)

 そんなささやかな願いが、今年(2026年)ついにかなった。

 普段滅多に訪れることがないとあるポイントは浅いところに死サンゴ石ゴロゴロゾーンが広範囲に渡っていて、昨年はそこで興味深いチビターレ各種と出会えたものだから、今年もさっそく何かいないかな…と足を延ばしたところ、あいにくまだ時期的に早かったらしい。

 そのため魅惑的なチビターレとは会えなかった代わりに、なんと世紀をまたにかけた30年以上ぶり、1995年以来となるウミスズメとの出会いが待っていた。

 ひと目でアドレナリンがボッと出たそのお姿はこちら。

 まったくノーマークだったから、思いがけない再会。

 ウミスズメも再会を祝しているのか(もちろん別個体ですが…)、正面を向いてくれてなんともフレンドリー…

 …という様子に見えるかもしれない。

 でも実際は、カメラに向かいながらこの姿勢のまま胸ビレを使ってバックし続け、やがて全速ダッシュの胸ビレバック泳法となって、ずっと一直線に後ろに逃げていたのだ(↓背景が変わっているでしょ)。

 バックで全速力だなんて、ハリウッドのアクション映画でしか観たことがないというのに、なんというチカラ技。

 とっととクルッとターンして全速前進に切り替えればいいのに、ずっとこのままバックし続けているものだから、この時点でのワタシは遭遇してからまだ顔しか見ていない。

 すると、ひょっとしてコンゴウフグの若魚だったりして…と一抹の不安がもたげてきた頃を見計らってくれたかのように、ウミスズメはクルッとターン。

 おお、この尾ビレはまぎれもなくウミスズメ…

 …かどうかは知らないけど、少なくともコンゴウフグではありえない。

 あらためてよく見てみると、背中にある突起もコンゴウフグには観られない特徴だ。

 これがあるから、前から見たら3本目の角があるように見えたのだなぁ…。

 もちろん目の上には、コンゴウフグよりは控えめながら、それなりに攻撃的な2本の角がある。

 全速バックという、妙な逃げっぷりも観ることができて、いやはや、まさかのウミスズメ、それも30年以上ぶりとなれば、50年ぶり2度目の甲子園出場校と同じでほぼ初めてといっていい。

 ちなみに95年に初遭遇したのも、たしかこのポイントだったはず。

 昔はコンゴウフグが特異的に多かったのも、今のところ唯一となっているウナギギンポも、ミニミニジョーフィッシュも、キングジョーも、ニシキアナゴとちょくちょく会えるのも、み〜んなこのポイントだ。

 やはりここは、他とは一線を画す生物相を誇っている…。