11・タオルミーナ駅

 寝られないまま迎えた夜明け。
 夜来の雨は相変わらずで、おさまったかな?と思ったら再び雨、雨、雨、雷、雷、雷。

 ……うーむ、天気は期待できそうにない。

 眠れぬまま布団に包まっていても仕方がないので、朝食のレストランの場所をもう一度フロントにて確認がてら、ホテルを探検してみることにした。

 タオルミーナはイタリアに留まらずヨーロッパ各国の人々が憧れるリゾート地なので、ホテルはいわゆるリゾートホテル。
 そのため敷地内にプールを完備したホテルが多く、ここヴィラ・ディオドーロにもプールがあった。

 とはいえ季節は早春。
 プールの需要はないし、そもそも夏のリゾート地であるタオルミーナに訪れている観光客はそれほど多くはない。

 館内を把握すべく階段を使いながらテケテケ歩いていると、やがて屋上に通じるフロアに達した。

 ドアを開けてみると………

 おおっ………………。

 さっそくうちの奥さんを呼びに戻った。

 昨夜は真っ暗で何も見えなかった周囲の風景、実はこんな海岸線を走っていたのだ。
 この雨雲がなかったら、正面にエトナ山が見えるはずなんだけどなぁ………。

 その後父ちゃんも呼びに行き、まずは絶景を観てもらった。

 「こりゃいい思い出になるわ」

 父ちゃんもご満悦のようである。
 が。
 いい思い出になると言いながら、翌々日に再び観に来るまで、この日この時この場所のことをすっかり忘れていた父ちゃんなのだった。

 その後、7時30分から始まる朝食をパパパパと済ませた。
 なぜパパパと済ませたかというと、この日の、いや、僕個人的には今回の旅行のメインイベントである現地手配ツアーが、朝8時出発予定だったから。

 深夜に到着して翌朝8時出発というのはいささかタイトかと思われたものの、諸々の事情でこの日に設定してあった。
 いったいどこへ行くのか。

 それは………

 ゴッドファーザーのロケ地めぐり!!

 このツアーの存在を知ったときの衝撃は今も忘れられない。
 (ツアー自体の詳細は
こちらをどうぞ)

 このゴッドファーザーのロケ地めぐりをはじめとする、シチリアでの様々なツアーを現地で企画・運営しているのはシチリアクラブというところで、代表者は日本人のヒロセさん。
 その彼女がガイドとなって、有名どころのロケ地はもちろん、マニアックなところまで案内してくれるのだ。

 待ち合わせ時刻の8時にヒロセさん到着。
 運転手は、いかにもシチリアの人って感じのアントニオ。
 ひととおり自己紹介を終え、本日の予定の相談に。

 というのも、今朝までの天気に鑑み、ヒロセさんとアントニオは、ツアー中天気がいいときに訪れたほうが絶対にいい場所については、明日にしたほうがいいかもしれない、と考えてくれていたのだ。
 ただ、未明の雷雨はいつのまにか遠ざかり、この時にはすでに空の一部では雲が白く輝き始めていた。
 猫の額ほどの晴れ間も出ている!!

 ヒロセさんいわく、あれほどの大雨のあとは、わりとスッキリと晴れるものなので、今日のお天気には期待できそうとのこと。
 なので、予定をどうするかはそのときになって決めましょうということに。

 では!!
 さっそくゴッドファーザーロケ地めぐりに出発!!

 最初に訪れたのは………

 タオルミーナ駅!!

 え?ゴッドファーザーとタオルミーナの駅に何の関係が??

 そう思ったあなたはまだまだ甘い。
 ここはこのシーン。


ゴッドファーザー・partVより

 劇中では写真のように、ホーム天井から「バゲリア」という他の地名(パレルモ近郊)がこれ見よがしに垂れ下がっているけれど、実はロケ地はタオルミーナ駅。
 柱の形といい、屋根の縁の飾りといい、看板は違うけどトイレの位置といい、まったく変わっていない(床は後年きれいにされたみたい)。
 この駅に到着した列車から、マイケルの元妻ケイが降りてくるシーンに繋がる。


ゴッドファーザー・partVより

 かつてアル・パチーノがここを歩いていたのだ!!
 というわけで、再現。

 む……無理があるか。

 ちなみにこの駅は、グランブルーでもロケ地になっている。
 ジャックの彼女が到着するシーンね。

 別に「鉄」ではないものの、ついでにシチリアの列車も紹介しておこう。

 このかわいい1両編成の汽車は、シチリア島のローカル線だそうだ。シチリアの鉄道の駅はどこもこのタオルミーナ駅のように美しいのかと思いきや、実はこんなにきれいなのはこの駅くらいだそうで、普通は1両編成の汽車にふさわしい素朴な駅なのだとか。

 そして、


先頭車両の鼻面が、普通に割れているところが素晴らしい……
って、こんなとこ、どうやったら割れるの?

 立派なこの電車は、ローマからシチリアを繋いでいるのである。
 間の海はどうやって?

 驚いたことに、レールが敷かれてある船に電車ごと乗っかって、船で対岸まで運ばれるそうだ。

 ところでこの駅、我々はこうして今ホームにいるのに、日本だったら当たり前の入場料など払ってはいない。そんなものは必要はないのだ。
 それどころか、改札すらない!!

 もちろん切符売り場はある。
 でもその空間は、近郊で発掘されたローマ時代の遺物が展示されていたりして、まるで博物館のよう。

 それもそのはず、建物自体が19世紀の建造なのだ。
 当時のお金持ち、すなわち貴族が、財力に物を言わせてドドンと造っただけあって、よく観ると床のモザイクや調度のひとつひとつに至るまで、隅々にまで贅を尽くしている様子がうかがえる。

 そんな空間だから、切符売り場の一画までが展示品に見えた。

 調子に乗って一人勝手に盛り上がっているワタシ。
 駅ひとつでこんなにスペースを割いてどうするのだ。

 でもこの日がメインイベントなのだから、読者は我慢してついてくるしかないのである。
 このあとも、あのシーンこのシーンが続々登場!!