13・ロケ地めぐり・2

 再びアントニオ操るタクシーは発進。
 そしてまた、ここはどこ?的な牧歌的な果樹園の小道に入っていった。

 「ここがどのシーンだかわかりますか?」

 ヒロセさんが挑戦的に問うてくる。
 うーん……こんな果樹園のシーンなんてあったっけ??

 あっ!!

 果樹園じゃなくて、このシーンだ!!


ゴッドファーザーより

 大戦後間もないのでまだ駐屯中だった米軍のジープが通りかかり、先頭を歩くファブリツィオが「アメリカに連れてってくれよ!」とジョークで声を掛けるシーン!!

 映画では、沿道にはオリーブが生えているだけにしか見えないのに、今ではすっかりレモン園とオレンジ園に。
 それら木々のせいで、奥の橋が見えなかったから最初はわからなかった。

 木々の様子は変わっているけど、後ろの橋はほぼそのまま!

 ところで、ここまで僕一人で楽しんでいるかのように誤解されている向きがあるかもしれないので、慌てて書き足しておく。
 ここまでの車窓からもさんざん見ていたレモンやオレンジに、二人が敏感に反応していたのはいうまでもない。
 なにしろ、方や島でささやかながらも果樹農園を楽しむうちの奥さん、方や超巨大グランドを整備して菜園と花壇と桜その他の木々を育てている父ちゃんなのだ。

 そんな彼らは、この沿道で実際に間近でたわわに実る巨大なレモンを観ることができて、いたくご満悦だったのである。


沿道のリモーニ!

 そして我が家のゴッドファーザーも、古のロケ地を一人歩くのだった。

 ……単なるタバコタイムって話もあるけど。

 この小道を後にし、再びタクシーは発進。今度は曲がりくねる坂道を登り始めた。
 そして目指す先は……

 ここだ!!

 これは説明の必要がないでしょう。
 まさにこここそが、この村こそが、


ゴッドファーザーより

 コルレオーネ村だ!!(劇中での話)

 この風景は是非晴天の下で観てみたい……。
 旅行計画中以来ずっとそう思っていた僕は、昨夜来の雨で完全にそのささやかな希望を諦めきっていた。
 それがよもやの青空!!

 まさかこの風景を目の当たりにする日が来るなんて……。
 それだけでも感動的に感慨深いというのに、この青空!!
 あらゆる神々に感謝を捧げたい。

 さすがにこれほどの風景だから、今ではこの角度から観られる場所に展望台があって、村を一望するのが容易になっている。

 モッタ・カマストラという名のこの村は、もちろん今もなお現役の村。ただしここで暮らすのは容易ではなさそうだ。
 というか、切り立った崖の真上に建つ家は、一歩踏み外したら崖下に真っ逆さまなのは間違いない。

 酒といえば酔っ払う度合いがハンパではない日本人にはとても住めたものじゃない。
 日本人のようにへべれけになるまで酔う習慣がないというこの国の人たちが、酔っ払って脚を踏み外すことはないのだろうけれど、それでも住民は減っていく一方らしい。

 この位置から眺める分には申し分ない美しさを誇る村も、内部に入るときっと苦労だらけで景色どころではないに違いない。

 申し訳ないけど我々は観光客なので、呑気に写真を撮らせてもらう。
 で、わかっている僕は上の写真のようにちゃんと(?)撮る。
 しかしわかってない人はこのように撮ってしまう。


撮影:オタマサ

 どうせちゃんと撮ってくれないだろうから、いいよいいよと僕が断っていたら、「せっかくだからだんなも撮ってあげるよぉ!」とうちの奥さんが撮ってくれたのはいいんだけど……

 背景がずれてるっちゅうの!!
 わかっちゃいないなぁ。

 この展望台からは、撮影に使われたモッタ・カマストラ以外にも、遥かに見晴るかす景色が楽しめた。

 山々の上にも、山間の谷間にも、それぞれ村が広がる。
 この地形で、なんでわざわざ暮らしづらそうな山の上に?と素朴に思ってしまうけど、それはこの島の複雑な歴史のためなのだ。

 地中海のど真ん中に位置するシチリア島が、地中海世界をめぐる幾多の文明の興亡と無縁でいられるはずはなかった。
 古くはギリシア文明世界からの植民に始まり、カルタゴの進出、そしてローマの台頭。

 その後ローマ帝国の衰退とともにビザンチン文化からアラブ世界の支配へと移ろい変わり、ノルマン人による王国の始まり、スペイン系の王家へ………

 …という具合に、紀元前の昔からめまぐるしく移ろい変わる歴史の中で、安穏と低地で暮らしていられた時代はそれほど長くはなかったに違いない。
 特に、ビザンチン時代のアラブの侵入は、雲霞のごとく襲いかかるエイリアンの集団なみの恐怖だったことだろう。
 宇宙海兵隊が植民施設にたてこもったのと同じように、城塞都市としての山上の村なのである。

 その他様々かつ複雑な歴史に翻弄されてきたであろう村々。
 しかし悠久の時の流れが、それらすべてを牧歌的な風景に変えてくれていた。