52・世界一のウソつき

 コロッセオをあとにして南に歩いていくと、突如出現する広大な空き地。

 てっちゃんグランドがある入間川の川辺のようなこの広場は…………

 ご存知チルコ・マッシモ。
 往時は30万人もの観客を収容できたという大競技場だ。


コロッセオとチルコ・マッシモの位置関係。矢印は我々が歩いたルート。
前掲の写真より抜粋

 「ベンハー」でチャールトン・ヘストンが戦車レースをしていたのと同じような場所だ。

 上の写真のちょうど真ん中あたり、パラティーノの丘に住む皇帝たちは、その高みからこの競技場を眺めることができる構造になっていたそうな。
 我々も丘の上からこの競技場跡を眺めるはずだったのだが、見逃してしまった……。

 そのかわり。
 最初の写真の丸印、何をしているかもうおわかりですね。

 チルコ・マッシモの大文字。<バカ。
 あきれた父ちゃんは、土手(?)で一服。


ローマに到着したときに通ったのはこの向かいの土手沿いの道

 反対側の土手側からこちらを見れば、背景にはパラティーノの丘の遺跡群が見えたはずなのに………。
 こっちから眺めると、なんだか久しぶりに柴又に帰ってきた寅さんのような風情だ。

 寅さんでなくとも、こうして土手に座っているだけで心地がいい。
 太陽をこよなく愛するヨーロッパ人のこと、土手(?)には日向ぼっこを楽しんでいる人たちも多かった。

 その利用方法は人によって違うにしろ、広場であれ空き地であれ競技場跡であれ、街には広々とした空間が必要だ。
 にしても、ローマ時代の競技場跡とはいえこの街中にこんなに広大な空き地をそのままにしてきた、この土地の歴史ってのも考えてみればスゴイ。
 もし天皇家が今の皇居にお住まいではなかったら、はたして江戸城跡地は今頃どうなっていたろう??

 このチルコ・マッシモの、かつて戦車レースが行われていたであろう地面を歩いていくと、その先にあるのがサンタ・マリア・イン・コスメディン教会。

 いわずと知れた、あの「真実の口」があるところだ。

 その教会の隣に、名もなき建物(教会だったかな?)がある(上の写真の左端の建物)。

 映画「ローマの休日」ではその建物は警察署という設定になっていて、オードリー様がグレゴリー・ペックとべスパを乗り回してエライ騒ぎを起こし、警察署にてお咎めを受けるシーンで登場する。

 で、一件落着して「警察署」を出たあとがこのシーン。


ローマの休日より

 さあ、これを再現しましょう!!

 ちょっと立ち位置が違ったものの、ほぼ同じ場所。
 まぁ、グレゴリー・ペックとオードリー様というわけにはいかないのは仕方ないにしろ、今回の旅行で撮った写真の中でのベストショットである、と個人的に認定。

 この映画によって「真実の口」に押しかける観光客は数多けれど、ここに来て写真を撮っている人はそうそういないと思われる。

 ちなみに、背後に見える魅力的な神殿は「勝者ヘラクレスの神殿」と呼ばれている。
 てっきり、何かの戦いの勝利の記念なのかと思いきや、オリーブオイルを商う商人が建てたのだとか。
 紀元前2世紀末頃のことだそうで、なにげにささやかにポツンと建っているけれど、実はローマに残る大理石製神殿の中では最古なのだそうな(ティベリウス帝の頃に一度洪水で柱が9本壊れちゃったことがあるらしい)。

 そんな神殿の来歴とは関係なく、再び「ローマの休日」に注目。
 このあと階段を下りて教会に向かうオードリー様ご一行の背後に再び見える。


ローマの休日より

 この当時から50年経った今も、神殿も噴水も背後の建物も何も変わっていない。

 ただ松の木だけが、月日の流れを物語っていた。

 あ、松の木だけじゃなかった!!
 オードリー様ご一行がこのサンタ・マリア・イン・コスメディン教会を訪れた当時は、「真実の口」なんてマイナーな場所だったのだ。

 ところが今や……

 長蛇の列!!

 これみんな、「真実の口」に手を入れてみるという、お約束のポーズをしたい人たち。
 手を入れなくていいや……という方は、横からこんな感じで見ることができる。

 僕なんかはもう、並んでいる人の列を見ただけで、もう脇からチラッと眺めるだけでいいや……と思ってしまうのだが、なぜか妙にこだわる人たち二人。

 しょうがないので並ぶことにした。
 写真撮影は一人につき1枚でお願いします、と何ヶ国語かで書かれた貼紙が手前に張ってある。
 たしかに、こんだけ並んでいる人が気の向くままに何枚も撮っていたら日が暮れるわなぁ……。

 待つこと20分ほど。
 ようやく我々の番が回ってきた!!
 いいですか、一人一枚なのでチャンスは2度ですよ!!グレゴリー・ペックとオードリー・ヘプバーンみたいにちゃんとポーズ決めてくださいよー!!

 せーの、パシャ!!

 20分待った末のポーズがそれかいッ!!

 ちなみに本家本元は……


ローマの休日より

 さすが……。
 こういうときのためにこの言葉があるのだな。
 役者が違う。<当たり前。

 この「真実の口」、実はローマ時代のマンホールの蓋だったなどというまことしやかな話も有名だけど、ウソをついている人が手を入れると手を食べられてしまう、という言い伝えは実際に中世からあるものだそうな。
 今や世界各地から自らの潔白を証明したがる人が押し寄せている。もちろんのことながら、今までに一人として手を食べられた人はいない。

 というか。
 ウソつきの手は食べちゃうぞ……って、

 言ってるあんたが嘘ツキだろッ!!>真実の口。

 というわけで、ローマの結論その1
 真実の口は世界一のウソつきである。

 あ、映画では出てこなかったけど、教会の中はこんな感じ。

 6世紀に創建されて以降、この教会にも数々の歴史があるらしい。いろいろと姿を変えつつ、今世紀になって8世紀頃の姿に戻されたのだとか。

 「真実の口」に手を入れた人たちのうち、いったいどれくらいの人がここまで来ているのかは、定かではない………。