エビカニ倶楽部

ニジイロヤドリエビ

体長 10mm

 ツマキヤドリエビと同じく、このニジイロヤドリエビも、前世紀には違う名前で図鑑に載っていた。

 ところが現在ではそのシマヤドリエビという和名は別の種類のものとなっており、今世紀になって改められた名前は、元の名よりも遥かに美しいイメージになった。

 実際にニジイロヤドリエビは、ムラサキヤドリエビやツマキヤドリエビに比べてとってもきれい。

 ナガウニの棘の合間で、隠れていたいのか目立ちたいのか、どっちなんだろう。

 ニジイロヤドリエビがまだシマヤドリエビと呼ばれていた頃の私は、「エビエビ、カニカニ」と日ごと目を血走らせていた頃で、本業がヒマだったこともあってけっこうビーチで潜ることも多かった。

 現在の海水浴エリア周辺に比べれば昔はもっと水深があったとはいえ、それでも何時間潜っても窒素が蓄積しないくらい浅いし、タンク内の空気は2時間潜ってもまだ半分近くあるくらいだから、のんびりゆっくりエビ・カニ探しをすることができる。

 今よりも遥かにエビやカニの宿主となる生き物が多かったから、探し甲斐もたっぷりあったのだ。

 ウニももちろんサーチ対象。

 海水浴エリアで最も多く転がっているウニといえばナガウニで、その棘の合間に潜むナニモノかをチェックしていたところ、ウニから1cmほどの黒っぽいものが、ピューン…と飛び出して傍の礫の下に隠れた。

 ウワサに聞くシマヤドリエビ(当時)との初遭遇だ。

 それにしても、なんと根性がないというか、薄情というか、「ヤドリエビ」という名のわりには宿主への執着度が低すぎ。

 住処のマンジュウヒトデをひっくり返されても、ヒトデでバレーボール遊びをされても(前世紀のことなのでご容赦ください))、必死にしがみついて離れないヒトデヤドリエビとは大違いだ(離れてしまうこともあります)。

 もっとも、ヤドリエビという名が付いてはいても、このニジイロヤドリエビやツマキヤドリエビはテッポウエビの仲間なので、たとえ名前はヤドリエビでも、カクレエビの仲間のような宿主への執着は全然ないのかもしれない。

 一説には、彼らはウニに宿っているというわけではなく、ナガウニが住んでいる穴というかくぼみに一緒に住んでいるという意味での共生なのだとか。

 であれば、ナガウニからピューンと離れてどこかへ行ってしまうのももっともだ。

 でもそれだとあっという間に逃げてしまうから、観察するのも撮るのも容易じゃないなぁ…

 …と思いきや、今世紀になって出会ったニジイロヤドリエビは、ナガウニの上でビクともしないお利口さんだった。

 逃げるどころか、テッポウエビ類の特徴である立派なハサミ脚を、誇らしげに見せびらかしてくれたほど。

 ピューンと逃げられた初遭遇時とは大違いだ。

 昔に比べればナガウニも激減してしまい、ひとたび離れたら次のナガウニに出会えなくなるから、ニジイロヤドリエビも暮らしぶりを変えてしまったのだろうか?